Interview by Sakrifiss(Thrashocore)
オリジナルの掲載はこちら >> Thrashocore(France).
フランスのウェブジンThrashocoreのジャパニーズブラックメタル特集にインタビューが掲載されました。
多くのバンドのインタビューが掲載されています。

1.まずバンド名、Yvonxheの説明をしてください。

Shit-Cho:
変わった名前だとよく言われる。我々自身もそう思う。
正直なところ、深く考えず字面だけでアルファベットを選んだ。読み方も決めていなかった。特定の意味を持つ単語をバンド名にする事は、聴き手に一定の先入観を与えてしまう恐れがある。一つの明確な思想を継続して表現していくという目的で組まれたバンドであれば、意味を持つ単語を採用する事が重要なコミットメントになるのだろうが、我々はもっと柔軟にブラックメタルを解釈したかった。あらゆる感情を表現したかった。だから誰も意味がわからない言葉にした。
読み方も「イヴォンクシェ」と表明しているが、知り合いのアメリカ人にyvonxheという綴りを見せて「ネイティブはこれをどう発音する?」と聞いた結果、そうなった。彼はかなり困惑していたけどね。そりゃあそうだろうな、日本人に、外国人がありもしない適当な創作漢字を作って読み方を教えろと迫るのと変わらない。
つまりは全く無意味な言葉であり、それが我々のバンドに対するコミットメントという事だ。

Jirolian:
僕はサポートとして入って、はじめに名前を教えてもらった時に、coolな名前だと思ったよ。
読み方は最近知った。

Diezine:
結成した当初から音楽性は変わっていくだろうと思っていた。プリミティブ・ブラックメタルと呼ばれることもあるけれど初期の録音は全部自分達でやっていて、技術も知識もなかったからプリミティブにしかならなかっただけなんだ。
決まった音楽性を目指しているわけではなくて、このメンバーでどんなケミストリーを起こせるかのほうが重要なんだ。だから今は「ブラックメタル」だけれども今後もずっとそうだとは限らないということ。自分達の表現を突き詰めていくだけ。

2.私は15年前から日本に住んでいる。なのにメタル、特にブラック・メタルが好きな日本人にあまりあったことないです。なぜだと思いますか?どうやってBMに出会いましたか?

Shit-cho:
日本のブラックメタル人口は、かなり少ないよ。そもそも、広義のメタル自体、あまり注目されていない。
日本はメタル大国と言われるが、むしろ「洋楽」大国なんじゃないかな。かつて日本では、欧米の音楽を聴く事が一つのファッションになっている時代が長く続いていた。そんな中で、80年代に欧米で流行していたヘビーメタル・ハードロックに触れる人も多かったんだ。90年代に入ると欧米のブームは沈静化したが、日本では少しタイムラグがあって、まだ熱は冷めていなかった。だから当時、欧米のバンドは日本に来てライブをすると、集客も多いし盛り上がるし、「日本はメタラーが多い!」と思ったんだろうね。日本人メタラーもそう。でも21世紀に入り、そういう意識はかなり薄れてきている。洋楽・邦楽という境目も無くなってきている。そもそも、多くの人々にとって音楽を聴く事自体のプライオリティが低下してきている。ましてや、大部分の日本人はメタルミュージックを聴いた事が無いだろうし、興味も無い。これが現実だ。ブラックメタルにまでたどり着く人はもっと少ないな。
まあ、こういったジャンルは多くの人が楽しむというものでもないし、それ自体に不満は何も無い。アンダーグラウンドシーンはいつの時代も途絶える事は無いからね。普通に生活している中で、ブラックメタラーと遭遇する確率はかなり低いという事だ。しかしアンダーグラウンドシーンに足を踏み入れれば話は別だ。とてもディープな議論がそこでは繰り広げられている。だから一度そこへアクセス出来れば、孤独感に苛まされる事は無い。
どうやって私がブラックメタルに触れたのかというと、大学生の頃、あるメタルCDショップの店員とバンドを組んだ際に、メイヘムやバーザムといった超有名バンドを教えてもらったのがきっかけだ。当時の私は、パンテラやメタリカ、スレイヤー、エクソダス、デストラクションばかり聴いていたスラッシュ・キッズだったから凄く新鮮だったね。そこから色々ブラックメタルのバンドを漁るようになっていって、今に至っている。
ブラックメタルとの出会いっていうのは、多分に「人との出会い」にリンクするんだと思うよ。

Diezine:
Deathspell Omegaが『Si monvmentvm reqvires, circvmspice』(2004)を出したときにShit-Choに教えてもらって知ったんだ。それまではブラックメタルという音楽は知ってはいたけれどあまり重要視していなかった。
でもDeathspell Omegaの表現に衝撃を受けて以降、それまでの偏見を捨ててブラックメタルに向き合うようになったんだ。これほどまでに心の闇をえぐり出す音楽には出会った事がないよ。

3. Yvonxheの音楽を聞いたら90年代のバンドだと思ってしまう。とくに思い出すのはLegion Noiresのバンド。日本ではフランスのブラックから影響を受けたバンドが多い気がしますが、どう思いますか?

Diezine:
90年代を感じるのはYvonxheが影響を受けているのがバンドはほとんど80年代90年代のバンドだからだと思うよ。
特にフランスの音楽を意識しているわけではないけれど、フランスのバンドを聴くとシンパシーを感じることが多い。というのは、きっと日本人の"美意識"と共鳴する部分が大きいんだ。
俺たちの音楽を聴いてそういう感想を持ってくれるのはありがたいけれど実際にはフランスのバンドのサウンドを意識して取り入れているわけではないんだ。あまり詳しくもないしね。
影響としてはブラックメタルを聴く前から馴染みのあったデスメタルとかNWOBHMとかのほうが大きいような気もしている。

4.2つの(短すぎる)EPと一つの(ちょっと短すぎる)アルバムだけでYvonxheは日本、いや、世界のTrveBMの期待できる新星になった。日本と外国の評価は気にしていますか?

Diezine:
最初のEPを出したときに、まだアルバムも出していないのに外国のレビューサイトにも取り上げられていたのは本当に驚いたよ。ブラックメタルのリスナーのアンテナの感度は異常だね。
音源をリリースしたあとはどんな評価を受けているのか気になるけれど、それが楽曲に反映されることはないと思う。俺たちの音楽は内向的なもので、意識の深層まで如何に入り込めるかが大事なんだ。
ソングライティングに集中するときには他人の意見は雑音にしかならないけれど、完成したものを他の人がどう受け止めるのかには興味はあるね。だからリリースした後は音源のレビューがあったらチェックしている。
Thrashocoreの記事も翻訳して読んだ。短過ぎてゴメンナサイ。

5.「憎しみ」、「怒り」、「くやしさ」、「復讐」を代表する音楽を作っています。多くの外国人は「日本人は皆優しい」、「日本は平和的な国」、「日本は安全な場所」など凄く暮らしやすい国だと思っている。だからこんな音楽を作れるのに驚いている!どこから来る「怒り」ですか?

Diezine:
確かに日本は平和で安全で、多少落ちぶれたとはいえ豊かな国だ。しかし国民性にハングリーさが無い分、満たされているようで常に心が満たされない気持ち悪い空虚さが蔓延している。
日本は完璧を求められる社会なんだ。何もかもが出来て当たり前、電車が1分も狂わずに毎日動いている国だよ。そんな完璧なシステムに不幸にも馴染むことができなかった不完全な俺たちにとって世界は生きにくいものになってしまった。マイノリティになって、一度そのバスを降りたら二度と乗せてはもらえない。やりなおしは効かないんだ。
そして政治の問題、売国政府と偽愛国者、いつまでも団結できない糞左翼、さまざまな生活の問題によって俺たちは弾き出され居場所を失いつつある。「怒り」ももちろんあるけれど、それ以上に「悲しみ」を感じることのほうが多いし、死という存在はそれほど遠くない位置に存在している。実際まるで死んでるように生きているようだと感じることもよくあるよ。
俺たちのブラックメタルは居もしない悪魔を讃える様なファンタジーな内容じゃない。現実が十分地獄なんだ。物質面では満たされているように見えるだろうけど、今の日本を覆っている空気は異常だよ。ブラックメタルだからという理由で海外を真似して神話の世界に逃げ込んでもそれは現実逃避でしかない。
それよりも物事の真実を見極めることだ。

Shit-Cho:
日本は良い国だよ。日本人で良かったと思っている。とはいえ、不満がゼロという訳ではない。
真実が全て目に見えるとは限らない。得体の知れない焦燥感・疎外感・劣等感・嫌悪感・絶望感…これらはいつまでも我々の背中に黒い影を落としていて、振り払うことは並大抵では出来ない。真実として、その負の感情は存在するが、その原因は明確なものでない事が多い。人間が生まれつき抱えている弱さや欲深さが発端だからだ。修正できないよ。
その内面的な原因を何らかの形で可視化することで、束の間の安堵を得たいのかもしれない。文学、絵画、音楽、映像…フォーマットは様々だが、我々はそれにブラックメタルを選んだという事だ。
ちなみに私は日本が割と好きだよ。

6.Yvonxheの音楽に日本的なパートが全然ないと思いますがジャケットは必ず「日本」です。そのジャケットの話しをききたいです。昔の絵ですか?なぜそんなのを選びましたか?(私も大好き!)

Shit-Cho:
ありがとう。
その通り、日本の古い絵画を引用している。1stEPは12世紀の「地獄草紙」(草紙=書物の意」)から抜粋している。1stアルバムは同じ時代の「餓鬼草紙」(餓鬼=生前、強欲であった人間が死後の世界で罪を償う為に姿を変えられたもの)から、2ndEPは19世紀の有名な浮世絵から抜粋している。
なぜこのように、日本の絵画を続けて採り上げているのかというと、当時の日本人達が畏れていた死後の世界、怪異に改めて焦点を当てたかったからだ。「得体の知れないものに対する畏怖の念」はブラックメタル全般に共通する精神だと思う。楽曲中に日本的なメロディーは無いが、その精神をジャケットでも表現しようとした際に、最初に思い浮かんだのが「地獄草紙」の絵だったのが発端だね。普段、日本の古典音楽を聴く機会はあまり無かったから音楽に影響は与えていないけど、古典画には親しみがあったからこうなったんだろうね。
嬉しい誤算として、海外のリスナーからアートワークについてcoolだというコメントが寄せられることが多い。我々からすれば手垢のついた古い日本画が、海外から見たら新鮮だったんだろう。日本のブラックメタルである事を明確に発信できているという点でも満足している。
今後は過去の名画からの引用だけではなく、現代の若手日本画作家とのコラボも考えている。
これまでは過去作品の引用だったが、完全オリジナルのジャケット絵にも興味があるね。

7.国際的なキャリアができた日本バンドは少ないと思います。日本のバンドに何かがたりないと思いますか?

Die-Zine:
何故に日本にブラックメタルが根付かないか、国際的なキャリアを築いていくバンドが現れないのか。それはサウンドだけの話ではなく、そこには『文脈(context)』の問題が大きく関わっている。ブラックメタル然としたサウンドなんて誰にでも作れるからね。重要なのはそこではないんだ。
芸術史を紐解けばわかるように、今日まで名を残している芸術家/作品はその歴史の前後関係に紐づきながら評価が形成されている。北欧を起源とするブラックメタルを"正統なもの(=主流)"とするならば日本のブラックメタルはそこから最も離れた距離に存在すると言っても過言ではない。
そのような状況で世界標準として評価を受けるには、海外に流れている"正統なるブラックメタルの血"の流れを受け継いだ上で、新たな価値観、新たなサウンドを提示し、その文脈を継ぎ足していかなければならない。
自分達はどこから来たのか、そして何処へ向かっているのか。そう考えると日本のブラックメタルだからこそ出来る事、世界に向けて提示できることは必ずあると思うよ。
自分達が"邪道であること"を自覚した上で表現されるSighのアバンギャルドなブラックメタルは日本的であると言えるし評価されるのは理解できるだろう?逆に海外の真似をしただけのサウンドを出しても何にもならないよ。自分達が何なのか、もっと深く見つめないといけない。
BABYMETALを例にするのが正しいかどうかわからないが、彼女達はX-JAPANをパロディにしたようなアイドルだったけれど海外進出するにあたってメタルシーンの重鎮達に急接近していったよね。
賛否両論はあるにせよあれだけ多くのメタルレジェンド達がBABYMETALを認めた時点で彼女達は立派にヘヴィメタル音楽史にコミットしているわけさ。彼女達を無視し続けている某国内有名音楽雑誌のほうが老害のようにも見えるよね。
実際その某国内有名音楽雑誌は過去のバンドばかりを評価し、正統とするあまり新たに生まれてくるシーンに対しては冷ややかであったと思う。
もちろんそれは国内の若手バンドやアンダーグラウンドシーンに対してもだ。あの雑誌は新譜の音源を100点満点で評価しているんだけど、そのページすら金で買われているんだぜ!?本当にくだらないよ。
まぁそういうわけでずっと以前から国内のブラックメタルのシーンは断絶していて、例えばSighのようなビッグネームのバンドと現行の国内若手ブラックメタルの接点は今でも無きに等しい。
かつてはシーンをサポートする体制もほとんど出来ていなかったから過去のバンドは海外へ音源を流していくしかなかったんだと思うよ。言い換えると先人達は偉大ではあったけれども国内シーンの形成にはそれほど寄与していないし、若手をフックアップすることもあまりない。
現在ではZero Dimensional Recordsが国内シーンの文脈を紡いでいくにあたってに大きな貢献をしていると思うし、ファンジンを作ったり情報を発信する人間も増えていると感じている。海外のバンドの来日も増えているし、日本のバンドにとってはチャンスは増えて行くんじゃないかな?

8.掲示板などでよく読んだコメントですけど:「プレーを押して座ったらもうEPが終わるのは残念。アルバムも短いです。」なぜ2分以上の曲を作らないですか?

Jirolian:
スリリングな展開を求めた結果だと思っている。聞いている人が予測できるような瞬間を作らないようにした。
ただ、個人的にはこれまでに出した作品について、短いとは感じていない。表現に適切な長さっていうものが多分あるんだ。だから、今後の作品で何を表現するかによって自ずと尺も変わってくると思う。

Diezine:
曲が長さで曲の価値が決まるとしたらX-JapanのArt Of Lifeは大名曲になってしまうよ。
日本の音楽の多くは1コーラスが終わったらちょっとアレンジを変えて2周目へ〜みたいな曲ばかりでつまらないんだ。既存の固定観念やスタイルを崩して行くことが我々の思想でもあり、批判はされるだろうとは思ったがこのやり方でやらせてもらっている。
これまでの作品については、この短さにも意味があるんだ。でも今後は少し方向性が変わって来ているし、そこにこだわっているわけではないんだけどね。

Shit-Cho:
その必要性が今のところ感じられないからだ。短さに拘っていない。しかし、「一般的な長さ」にしなければとも思っていない。
私が即興で作った初めてのYvonxheの曲が1分半程だった。リフを幾つか展開して、終わり。プロトタイプだったから、そこから構成を練り直して、4〜5分の「普通の曲長」にするつもりだった。しかし、そのデモを聴いてみると確かに短いが、それでも十分に楽しめる事に気づいたんだ。
ならば無理にリフを繰り返させて冗長にすることも無いと思った。
Diezineに相談したら、彼もその考えに賛同してくれた。
そんなスタンスだからこれまで短い曲ばかりになっているが、曲の短さが我々のアイデンティティというつもりは無いのは、重ねて言っておかないといけないね。

Diezine&Shit-Cho with Nazgul(Satanic Warmaster) Photo from out 1st live Secret Mission at legendary hotel Hatoya


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